あらばるの矯正日記

歯列矯正のこととか

センチメンタル・抜歯

さよならだけが

人生だ。春は出会いと別れの季節。私の春(つまり矯正器具が外れるのは)まだ2年半ほど先の予定だが、別れだけは治療開始早々にやってくる。

前回の診察終了時、署名済み同意書を提出し正式に契約が成立した。そのまま矯正費の支払いを済ませて、今までの人生で最高額の領収書と共に手渡されたのは抜歯計画書だった。(執筆現在、クレジット一括で払った為まだこの時の引き落としが来ていない。怖いよ〜)

 

抜歯へバトンタッチ

この矯正歯科では抜歯をしない方向らしく、紹介元のかかりつけ歯科に抜歯計画書を渡し抜歯してくるよう指示を受けた。3週間後までに上の小臼歯を2本、さらにその1ヶ月後までに下の小臼歯を2本抜いてきてほしい。しかし、難しい場合はできる範囲から治療を進めていくので無理はしなくて良い、とのことだった。

思ったよりタイトなスケジュールに慄いていると、いつも通りお仕事スマイルの先生が

「A先生(かかりつけ歯科)は抜歯お上手ですからそちらでやってもらいましょう。こちらからお電話もしておきますね」

と一言添えた。矯正歯科と一般歯科で連携してもらえるのなら患者としては大変ありがたい。2つの歯医者の間でWin-Winな関係を築いているのか、はたまた面倒な抜歯だけ体良く外部委託しているのか、なんだか微妙な関係で面白かった。

 

後日、かかりつけの歯科に抜歯予約の電話をする。こちらは笑顔など微塵もなく常にテンションの低い(しかし職務には忠実な)先生がボソボソと答えた。

「あー、やっぱり抜くんですね…。わかりました、大人の抜歯なので様子見て1本ずつやりましょう」

実はこの先生、歯科の中でも保存科の出身。日頃から、なるべく歯を削ったり抜いたりしないような治療を掲げている。そんな先生に健康な歯の抜歯をお願いするのはこちらも心苦しいが、そもそも矯正歯科を紹介してくれたのもここなので開き直ることにした。

 

抜歯当日

先生の希望で昼12時の予約となり、当日は朝から落ち着かない気持ちで過ごしていた。ちなみに抜歯前日には、最後の晩餐とばかりにサイゼでピザやラム肉ステーキ、さらにマックで抹茶わらび餅パイを食べた。(こんな時にジャンクフードばかり食べてしまうのは、庶民の悲しいところである)

いよいよ時間になり、クリニックを訪問する。もちろん人生で抜歯なんて初めてなので既に相当に緊張していたが、ダウナーな先生が「頑張って綺麗になりましょうね」などと柄にも無く前向きなことを言うので、少し気持ちがほぐれた。そのままブスッと麻酔注射にいくのかと思いきや、吹きかけるタイプ?のようで特に痛みは感じない。ちょっと苦かった。麻酔が効いたところで先生がペンチを取り出して、そのまま歯をガシッと掴む。

ミシッ、ミシミシッ…グリグリ…ググッ…ポン!

抜けた。呆気なさに茫然としているうちに、ガーゼを噛まされる。抜けた歯をすぐさま確認しようとすると、先生が手にのせてくれた。思っていたよりも綺麗な根っこの、立派な歯だ。永久歯に生え変わってから20年弱。数えきれないほどの食事を共にした同志に、つい「ありがとう」と声をかけてしまった。

最初から頭では分かっていた事だったが、抜いた歯と直面して初めて、まだ健康な歯を抜くことに後悔を感じた。残り7本もこんなことをしなくてはならない現実や突然の別れにちょっと泣きそうになりつつも、もう決断は既に終わっているのだと自分を無理やり納得させた。

 

センチメンタル・抜歯

抜歯が終わり、痛み止めと抗生物質を3日間分処方される。1週間後に次の抜歯予約を取って帰宅した。抜いた歯は消毒後に先生が専用のケースに入れてくれたので、持ち帰って家族に「見て、私の歯チャン…」と見せて回った。見て、私の歯チャン…。